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何の前触れもなく、その一言は訪れました。
「先生、実は塾を辞めようかと思っていて……」
身構える間もなく切り出される、あの瞬間。多くの塾長が、一度は経験しているのではないでしょうか。
退塾を防ぐための面談術や、信頼関係の築き方については、これまでも多くのノウハウが語られてきました。
ただ、実際に「辞めたい」と切り出された、その瞬間にどう答えるかは、あまり語られてきませんでした。
準備していた面談であれば、落ち着いて向き合えます。ところが「辞めたい」は、たいてい不意打ちでやってきます。
授業が終わって帰り支度をしている生徒から、ぽつりと。あるいは、電話をかけてきた保護者から、話の途中で急に。
そんな場面で突然切り出されたとき、とっさに出た一言で、その後の話し合いの雰囲気がまるで変わってきます。
この記事では、「辞めたい」と言われたその瞬間に、何を言い、何を言わないほうがいいのか、初動対応の3つのポイントをご紹介します。
「辞めたい」と切り出された瞬間、多くの先生がとっさに取ってしまう対応がいくつかあります。
ひとつは、反射的に引き留めにかかることです。
「もったいないですよ」「せっかくここまで頑張ったのに」という言葉が、つい口をついて出てしまうことがあります。
ただ、これは生徒や保護者からすると、「自分の事情より、塾側の都合を優先されている」と受け取られかねません。
もうひとつは、理由を問い詰めてしまうことです。
「なぜですか」「何が不満だったんですか」と矢継ぎ早に聞いてしまうと、相手は責められているように感じ、本当の理由を話しづらくなってしまいます。
そしてもうひとつが、その場で条件を変える提案をしてしまうことです。
「では月謝を下げますので」「担当講師を変えますので」といった提案を、理由も分からないまま口にしてしまうと、根本の課題とはずれた対応になり、結局は同じ理由で再び「辞めたい」という話に戻ってしまうことがあります。
これらに共通しているのは、「引き留めなければ」という焦りです。その焦りのせいで、相手の話を最後まで聞く前に、何か言おうとしてしまうのです。
「辞めたい」と言われたら、最初にすべきことは、説得でも提案でもなく、理由を最後まで聞くことです。
途中で口を挟まず、「そうだったんですね」「もう少し詳しく聞かせてもらえますか」というように、相手が話し切るまで待つ姿勢が大切です。
理由を話す過程で、生徒や保護者自身の気持ちが整理されることも少なくありません。
たとえば、保護者から「塾を続けるのが難しくて……」とだけ電話で切り出された場合、その一言だけで判断せず、「難しいというのは、どういったところが?」と、具体的に何が負担になっているのかを丁寧に確認します。
月謝の負担なのか、通塾の時間帯なのか、成績が伸びずに続ける意味を見失っているのか——同じ「難しい」でも、背景はまったく異なります。
ここで急いで反論したり、正当化したりすると、相手は「分かってもらえなかった」と感じ、かえって気持ちが固まってしまうことがあります。
「でも、お子さんも頑張ってきましたし」という言葉も、励ましのつもりが、相手には「今の気持ちを否定された」と映ることがあるため、注意が必要です。
理由を聞いたあと、すぐに意見を述べる前に、「そう感じていたんですね」「教えてくれてありがとうございます」というように、まず相手の気持ちを受け止める言葉を一言はさみます。
反論や説明が先に来てしまうと、相手は「 聞いてもらえなかった」という印象を持ちやすくなります。
特に保護者の場合、電話越しに感情的な言葉で切り出されることもあります。
そうした場面ほど、こちらの説明を急ぐのではなく、まず「ご連絡いただき、ありがとうございます」「そのように感じさせてしまっていたんですね」と、相手の言葉を一度受け止める一言を挟むことが効果につながります。
たとえその後に伝えたいことがあっても、最初の一言が受け止める言葉であるかどうかで、相手の心の開き方は変わってくるように思います。
逆に、「そんなことはないですよ」といった否定から入ってしまうと、相手は自分の気持ちを表に出しにくくなり、本音を話してもらえないまま話が終わってしまうこともあります。
受け止める言葉を伝えたあとも、その場ですぐに結論を出そうとしないことが大切です。
「今すぐ決めなくても大丈夫ですよ」「一度、こちらでも整理して、あらためてご連絡させてください」というように、その場での結論は保留にしつつ、次にいつ・どう動くかを明確に伝えます。
この「次にいつ動くか」を曖昧にしないことが重要です。
「近いうちに」ではなく、「明日中にお電話します」「今週末に一度、お時間をいただけますか」というように、具体的な日時を口にすることで、相手に「後回しにされた」という印象を与えずに済みます。
「辞めたい」という言葉は、一時的な感情の高まりで出てくることも多く、その場での即断は、双方にとって後悔につながりやすいものです。
ひと呼吸置くことで、生徒・保護者側も冷静に考え直せますし、塾側も、これまでの学習状況や出席状況を振り返り、次の対話に向けて準備する時間を持てます。
ただし、次の連絡や面談の予定はできるだけ早く設定し、間を空けすぎないことが大切です。曖昧なまま時間だけが過ぎると、かえって不信感につながってしまうこともあります。
ここまでの3つの初動対応がうまくいけば、生徒・保護者は落ち着いて話せる状態になります。
ただ、根本的な原因が解消されなければ、同じ悩みは再び訪れます。
ここから先は、「辞めたい」という言葉の裏にある理由を、丁寧に切り分けて考える段階に移ります。
成績が伸び悩んでいること、講師との相性、部活や習い事との両立の難しさ、家庭の経済的な事情など、理由によって本来必要な対応はまったく違うからです。
たとえば成績不振が理由であれば、指導方法や教材の見直しが有効かもしれませんが、家庭の事情が理由であれば、月謝や受講形態の相談のほうが適切かもしれません。
そして忘れてはならないのが、「辞めたい」に至る前の段階で、信頼関係を築いておくことや、生徒の状況を早めに把握しておくことです。
この点については、面談の準備や、退塾の兆候への向き合い方を扱った記事も参考になります。
▼保護者から信頼を得る面談術に関する記事はコチラ
▼進級のタイミングでの退塾を防ぐ具体策に関する記事はコチラ
「辞めたい」という一言に、慌てず、的確に向き合うためには、日頃から生徒一人ひとりの学習状況や変化を把握しておくことも助けになります。
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